ペルーの子供達レポート[I1]
 




連載第1回

「お菓子作り」という学びの場 〜MANTHOC・DELINATSプロジェクト〜

私は、2010年3月から2ヶ月半ペルーのリマに滞在して、MANTHOC(マントック:キリスト教、働く子どもたち、および労働者の子弟たちによる運動)という団体が運営する学校でボランティアを行なってきました。MANTHOCは、児童労働をする子ども達がイニシアティブを取り、それを支援する大人たちと一緒に活動している団体です。以下は、私が見たこと、感じたことをまとめた個人的な報告です。

■ 居場所をなくした子ども達

この地域は、ペルーの他の貧困地域と同様、さまざまな問題を抱えています。貧しさから家庭が崩壊したり、人々がアルコールに依存したりするのは珍しいことではありません。そのような環境で育つ子ども達は、生活状況も悪く、親からの愛情に欠け、きちんとした教育も受けることができずに居場所を失っています。
そんな中、小学生から高校生まで40人から50人の子ども達は、自分の意思で学校に通うことを決め、家族のために働きながらも通学のバス代を工面し、近所に漂うマリファナの臭いをすり抜けて、毎日この学校に通っています。

■ 学校は子ども達の心のより所

写真[1] 学校に来るのは勉強のためだけではありません。休み時間には体を動かしてめいっぱい楽しみます。
学校に来るのは勉強のためだけではありません。休み時間には体を動かしてめいっぱい楽しみます。
学校に着くと、低学年の子ども達は私を取り合うかのように、腕にしがみついてきます。気づくとそっと隣に座っている子もいます。名前を覚えてもらうと他の子供に自慢します。子ども達は、家で親からもらえない愛情を学校の先生やボランティアに求めているのです。

一方で、愛情を素直に表すことができない子ども達もいます。カルロス君(12歳)もその一人でした。彼は、普通なら小学6年生になる年齢ですが、今でも読み書きができません。これまで、教室で暴れたりして、いくつもの学校から追い出されてしまいました。この学校でも2年生のクラスで勉強していましたが、人ときちんとした会話ができず、周りの子供にちょっかいを出したり、イライラして暴力を振るったりして、このクラスでも勉強を続けられなくなってしまいました。それでもカルロス君は、学校に通い続けたかったので、相談して高学年のクラスで自分の勉強を続けています。

どんな問題児でも、なかなか学ぶことができなくても、先生たちはあきらめずに手をさし伸ばし続けます。家に帰っても気にかけてくれる人がいない子ども達にとって、学校が心のより所であり、先生達が親身になってくれる唯一の存在なのです。彼らにとっての学校の存在の大きさを実感すると同時に、ここにたどり着かない子ども達はどうしているのかと思うと胸が締め付けられる気がしました。

■ お菓子プロジェクト

写真[2] DELINATS(放課後のお菓子プロジェクト)の様子。ニコラス先生と子供達が手際よくお菓子を作ります。
DELINATS(放課後のお菓子プロジェクト)の様子。ニコラス先生と子供達が手際よくお菓子を作ります。
学校では各クラス、週一回の調理実習があります。これはお菓子作りを通して、様々なことを学んでいくというものです。食材の購入から、調理、販売まで、全部子ども達が行ないます。作るお菓子はエンパナーダ(肉入りパイ)やシャーベット、クッキーなど様々です。調理の前に手を洗う習慣や食品についての知識を身につけるのはもちろんのこと、日々役立つスキルも身につけていきます。材料を書くのは読み書き、材料を計量や売り上げの計算は算数、そして人と対面して販売することはコミュニケーションの練習になります。

2010年からは、DELINATSという新しいプロジェクトも始まりました。毎日放課後に、やる気のある子ども達が集まり、先生の指導のもとお菓子作りと販売を本格的に行うのです。子ども達には、毎日少しの給与が支払われます。これもある種の児童労働ですが、路上で働くのとは大きな違いがあります。 調理実習を担当するニコラス先生は「このプロジェクトが今すぐ、そして将来、子ども達の役立つことを願っているんだ」と語ります。

■ 子ども達の可能性

写真[3] 調理実習で作ったお菓子は、制服を着て近所の市場に売りに行きます。
調理実習で作ったお菓子は、制服を着て近所の市場に売りに行きます。
この学校に通う中で一番印象に残ったのは、子ども達のたくましさです。日本ではひとりで自分の身支度もできないような年齢の子どもが、上手に包丁を使い、モップがけや洗濯をしています。自分の力でたくましく生きる姿を見ていて、熱意を持った先生のサポートや学校が与えるチャンス、そして誰かが気にかけてくるという事実があれば、どんな子にも可能性があると思えるようになりました。

ぶかぶかの靴を履いて、毎日同じ服を着て通ってくるエベル君(11歳)は、毎日DELINATSに熱心に参加しています。家に帰ってもすることがないし、ここにいた方が楽しいと言います。でも、実は新しいことを覚えるのが大好きなのです。家庭環境に恵まれていたら、普通の学校の優等生になっていたかもしれないエベル君は、この学校にある機会を活かしてたくさん学び、社会に出てもたくましく生きていくことでしょう。

「貧困」という大きな問題を前にすると、この学校での取り組みは小さく見えるかもしれません。それでも、先生達や子ども達の姿を見て、私は、一人ひとりに手を差しのべることの意味と大切さを改めて実感しました。そして、自分には何ができるのか、もう一度考えてみる機会になりました。


★★岩崎由美子 プロフィール★★

国際交流NGOピースボートのスタッフとして、世界各地を巡る船旅をコーディネートする中で、ペルーの人々の暖かさと強さに魅かれる。2010年3月から2ヶ月半リマに滞在し、シウダー・デ・ディオスやビジャ・エル・サルバドルなどで活動する団体でボランティアを行った。


連載第2回 子どもたちの劇団「Arena y Estera(砂とムシロ)」でのボランティア報告へ


★ボランティアレポート 高橋朋小さん

連載第1回 Canta Galloって?


★ボランティアレポート 建部祥世さん

連載第1回 Un techo para mi pais


★ボランティアレポート ヒッキ―・Noromitaさん ☆連載中☆

連載第1回Arena Esterasでの体験談



閉じる
©2010 Asociacion Cussi Punku All rights reserved