ナソップ運動からペルー政府への質問状
   





〜国連「第41回子供の人権委員会」に提出された「子供に関する報告書」に関して〜

序文

ペルー国内の1万4千人以上の働く子供・青少年たちによって組織される、「ペルー働く子供・青少年全国運動(MNNATSOP)」は、学童市議会、 ASNI協会、家庭内労働に従事する女性達による組織(CCTH、IPROFOTH)、NGO団体「ヘネラシオン」,ラテンアメリカ・カリブ地域働く子供・青少年のための教育者養成機関(IFEJANT), INFANT, そして国立サン・マルコス大学社会福祉学科の代表者らと共に以下のことを考察する。
政府が提出した報告書に記載された、ペルーにおける働く子供・青少年の現況に関する分析内容、政府が掲げた目標が実際に達成されているか、報告書がどのような過程を経て作成されたのか、などを調査することによって、最終的に報告書の構成内容自体の批判を行うことを目的とする。

この質問状は、ペルー政府が提出した報告書を徹底分析し、報告書内に見られる虚偽や不明瞭な事項に対して質問をすることによって、より高い真実性とその内容に一貫性が見られる報告書の作成に寄与しようとするものである。
政府の提出した報告書は充分な調査、分析に基づかずに作成された虚偽のものであり、国内各省庁の報告書の寄せ集め、真実味のない統計資料に多少のコメントを付け加えただけの稚拙きわまりないものであることを明白にしている。
この報告書は、形式的に統計資料を用いて作成されているが、国内のごく一地域の現実を反映したものに過ぎず、その統計資料はアマゾン地域やアンデス地域など異なった生活様式を無視している。その上、子供・青少年を対象とした社会政策が非常に少ないこと、子供・青少年達と新たな社会契約を結ぼうとする意志が全くといっていいほど欠如している。

政府が子供・青少年たちに示すこれらの態度は、最終的に以下に帰結すると思われる。
  1. 子供、青少年に対する社会政策およびそのプログラム。
  2. 子供・青少年を対象とする社会政策に、前提となるべき「国際子供の権条約」の精神が徐々に反映されなくなる。そして、法制度の形式的な改善にのみ力を注ぎ、その結果、子供・青少年を社会の行動主体としての立場から除外しようとする社会環境があるにも関わらず、それを撤廃していくことの重要性を見失ってしまう。
  3. 国内の子供の大多数を占める、貧しい境遇におかれた子供や青少年たちの生活環境の、真の意味での改善は中期、長期間の展望をもってはじめて実現される。しかし、政府が現在実行している社会政策やそのプログラムはそれに寄与し得ないものである。


ペルー政府が、ペルー社会およびペルーの子供・青少年達に対して誠意を持って以下の質問に返答することを望む。
  1. ペルー政府は、報告書の内容を世論に伝えるためにどのような方策をとり ましたか?また、何故ナソップが報告書の公表を要請した際に、政府は女性社会開発省(MIMDES)を通してそれを拒否しましたか?
  2. それらが子供の権利に関する条約の条項内容に全く呼応してないものであるにも関わらず、何故、報告書内で掲示されているデータは、主に子供・青少年のための国内政策プラン2002‐2010(PNAZA)の内容に基づいているのですか?
  3. 子供・青少年、若しくは中等教育を何らかの理由で終えることの出来なかった人々が持つ文盲の問題に対して、ペルー政府はどのような政策での解決を試みているのですか?
  4. 刑法の改定に伴い、性的搾取や暴行を受けた子供や青少年たちはどのような利点を得ることが出来るのですか?
  5. 何故、女性社会開発省(MIMDES)は今日に至るまで、未成年犯罪者や未成年強姦者に対して場合により死刑を宣告すべきだという世論の高まりに対して、政府側の意見を一度も表明しないのですか?
  6. 政府は、子供や青少年に売春行為を強要する目的で子供・青少年を誘拐するマフィアグループに対して、具体的にどのような法的処罰の適用を考えていますか?
  7. ペルー、アマゾン地域の子供・青少年たちの現状に関して、出来る限り詳細に説明してください。
  8. 政府機関に所属する役人や公務員たちが、インディヘナの子供・青少年たちに対して、彼らの地域で元来使用されている名前を持つことを受け入れず、西洋的な名前を持つことを強要するという事実がありますが、それがいったいどのような法的、倫理的根拠に基づいて正当化されうるものであるのかを説明してください。
  9. アマゾン地域において木挽きとして働く子供・青少年の身体的安全を保障するために、政府側はどのような対策を彼らに講じますか?
  10. 真実と和解のための委員会(CVR)の報告書内に記載されている、80年代に発生したテロとの衝突で親を失い孤児となった子供・青少年たちに対して、政府はどのような対応を続けてきましたか?また、テロとの衝突時に子供を失った家族に対してはどのような保護処置をとってきましたか?
  11. ペルー政府は、児童売買や児童の計画的誘拐犯に対してどのような法的処罰を科しますか?
  12. ペルー政府は、コミュニティー内の監視や武器の輸送時に、軍を通して未成年者を利用しているという事実をどのように正当化しますか?
  13. 多くの子供・青少年たちの健康を著しく害している環境汚染の拡大に対して、政府はどのような対策を講じていますか?また、環境汚染を引き起こしている多国籍企業や国内企業に対してはどのような処罰を科しますか?
  14. 2005年度に批准された物乞いを禁じる法令は、国内の極貧にあえぐ子供・青少年たちに対する理不尽な制裁としか解釈できません。この法令はどのような方策をもって現実社会に適用され、実際どのような結果を残していますか?
  15. ペルー政府は、青少年犯罪者の自由を奪い、社会復帰をより困難なものにしている現行の閉鎖的なシステムに代わって、彼らの社会復帰を支援するような開かれた社会教育プログラムを持っていますか?
  16. 麻薬売買や麻薬使用の問題に巻き込まれた青少年たちに対して、ペルー政府はどのような方策を講じてきましたか?
  17. 現在においても、刑法に触れるような罪を犯していない子供・青少年達を閉じ込めて彼らの自由を剥奪するような施設が存在しているのですか?
  18. 日常の素行に著しく問題のある未成年に対して社会復帰のための教育システムとして存在する「集中ケア」と呼ばれるプログラムに対して政府はどのような見解を示していますか。また、政府はこの「集中ケア」プログラムを実際に体験した未成年者たちの声に耳を傾けたことがありますか?
  19. ペルー国とアメリカ合衆国の間で取り交わされた自由貿易協定(TLC)内に、「児童就労の撲滅」などと児童就労を否定的に捉えた条項があるのは何故ですか?政府の行政局、及び司法局は、子供・青少年の「最善の利益」とは何であるかについて説明できますか?特に、働く子供・青少年の「最善の利益」について述べてください。加えて、路上生活を余儀なくされている子供・青少年たちの「最善の利益」とはなんであるかについても述べてください。
  20. ペルー政府にとって、子供・青少年に関する政策を打ち立てるうえでの必要前提条件となる子供・青少年の「最善の利益」とは何であるかを明白にするための法的基準はどこにありますか?
  21. ペルー政府は、働く子供と路上生活を営む子供の権利をどのような方策でもって保障するのか説明してください。
  22. 現行犯でないにも関わらず、政府の独断的な判断でもって自由を剥奪された子供たち(リマ・マグダレーナ地区のNGOヘネラオンの一件に関連して)に、子供の権利が同等の効力をもって適用されていないのは何故ですか?
  23. 裁判訴訟時にみられたNGO「ヘネラシオン」の職員達への「迫害的行為」に抗議した子供の権利を擁護する弁護人達に対して、一般弁護人たちと同様の保障が国によって与えられないのは何故ですか?
  24. ペルー政府は、教育制度の改善を国策の第一義に掲げながら、全く意味を成さないほどの国家予算を教育部門に配分しているのは何故ですか?
  25. 深刻な栄養失調状態にあるペルーの児童人口の約25%を占める子供たちに対して、政府はどのような対策を講じますか?
  26. 子供・青少年に関する問題を扱う職業に携わる人々の専門家としての能力はどの程度のレベルまで達していますか?また、その適正能力はどのような形で確認できますか?この分野の専門家を養成するために政府はどのような努力を行い、どのような結果を得ましたか?政府は、女性社会開発省(MIMDES)、医療部門、教育部門、国家警察など子供・青少年に関する問題を扱う各行政機関のスタッフに対して適性能力試験を実施しましたか?試験の実施によってどのような結果を得ましたか?得られた結果をもとに、どのような方策をスタッフに対して講じましたか?
  27. ペルー政府は、2000年から2005年における海岸部、山岳部、熱帯雨林の各地域で、「乞食」と呼ばれる子供達が具体的に何人存在して、それぞれがどのような生活環境におかれているのかを明確に把握していますか?
  28. ペルー政府は、海岸部、山岳部、熱帯雨林の各地域で家庭内労働に従事する子供・青少年に関して、どのような統計資料を持っていますか?
  29. 数年前には、女性社会開発省(MIMDES)によって1000にものぼるNGOが承認を受けていましたが、現在では300にも満たないのは何故ですか?また、子供・青少年を扱う市民活動団体と連携することによってどのような政策を考えていますか?
  30. ペルー政府のイニシアティブにより、「児童就労撲滅プラン」を主題として開催された、アンデス地域諸国の会合はどのような法的根拠に基づいて正当化されうるのですか?
  31. ペルー政府は、国際労働機関(ILO)が、ペルー働く子供・青少年全国運動を、政府にとって「危険な存在」であると声明したことに対してどのような対応をとりましたか?
  32. ペルー政府は、どのような理論的根拠に基づいて、児童買春、児童売買、児童ポルノ、もしくは児童による武器輸送を、ILO協定第182号と関連付けてこれらがひとつの職業であると説明できますか?

国連子供の人権委員会(CRC)がペルー政府に対して以下の条項内容を勧告することを提言する。
  1. 児童就労の現状や問題点に対する情報収集に関しては、NGOやその他大きな機関の意見にのみ頼るのではなく、働く子供・青少年たちが自ら組織する団体の意見に対しても注意深く耳を傾けること。
  2. ペルー政府は、女性社会開発省(MIMDES)以外にも、青少年審議会(CONAJ)や教育委員会、またはこれらと同等に政府によって承認された、子供・青少年の問題を扱う各活動団体の要請などもしっかりと受け入れること。
  3. ペルー政府は、女性社会開発省(MINDES)を通して、NGOヘネラシオンに所属した子供達と近隣の住民、及び世論との間に和解が成立するように便宜を図る必要がある。
  4. 少年・青少年法の児童就労に関する条項のいかなる改定時においても、政府はナソップのメンバーの改定会議への参加を承認すること。尚、改定された条項は例外なく全ての働く子供・青少年たちに適用されること。
  5. 子供・青少年の問題を取り扱う際に、裁判官や司法官の自由裁量や主観的判断により「子供の最大の関心事」が誤って解釈されるのを防ぐために、「子供の最大の関心事」とは何かを明確にするための判断基準を確立すること。
  6. ペルー政府は、GNP比率0.7%から0.9%、金額にして16億ソーレス(約4,8億ドル)にも達する、働く子供・青少年の国家経済に対する貢献をGNPの一部として数えること。
  7. ペルー政府は、オローヤ鉱山での労働に従事することによって環境汚染の影響を受け、健康を著しく害している子供・青少年、もしくは妊婦たちに対して早急に特別対策を講じること。
  8. ペルー政府は、家族のための福利厚生機関(INABIF)のプログラム、またはWAWA・WASIプログラムが、貧困家庭にとって非常に重要な役割を持つものであることを理解し、その機能が十分に果たされるように特別の配慮を行うこと。
  9. ペルー政府は、女性社会開発省(MIMDES)内において重要性を失いつつある「子供・青少年担当部」に対して特別の強化を図ること。


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